「あん」(予告編以上のネタバレなし)

やっと、観に行けた。
ずっと行きたかったけど、忙しかったり体調崩したりで行きそびれてて、
10日終了予定のところが延長されててギリギリで滑り込んだ感じだなぁと思ってたら、八丁座ではこれから始まるようになってた。そっか、なーんだ^^ゞ

最初に短い劇場予告を見たときには、
美味しそうでハートフルな映画なんだろうな、と惹かれて。
次にちょっと長めの予告を見たら、
らい病(ハンセン病)を扱った少し重ためな作品なのかも、と知って。
でも、観に行けて良かった、と思える作品だったなぁ。
重たいテーマもあるけれど、美味しそうでハートフルなのも正解。そして、地球の音に耳を澄ませながら丁寧に与えられた時間を過ごしたくなる。

樹木希林永瀬正敏がね、とにかく凄い。
希林さんのお孫さんの伽羅ちゃんもしかり。
演じてる感がまるでなくて、目の前で店長さん(小さなどら焼き屋・どら春の店長さんが永瀬正敏)と徳江さん(大切にあんこを炊く得体の知れない老婦人)、ワカナちゃんがいるのを隣でそっと眺めているような不思議な感覚。

にのが見つけた極秘タレント図鑑にはきっと「類似タレント」として挙がっているだろう、あさのたたのぶでも、あらいひろふみでも、かせりょうでもなく、永瀬正敏の佇まいだからこそ、店長さんの人生がどんぴしゃハマるんだよなぁ。
希林さんは、もう、すごいとしか・・・。ほんとにすごいの。徳江さんそのものにしか感じられない。
映像も、あまりに日常的で、それがかえって切なくなってしまう。
桜も、木漏れ日も、木々も、ことさら綺麗な照明あてずにリアルなままのようで、それが美しい。

物語は、少しずつ丁寧に、だけど、とても不親切に進んでいく。
店長さんの背景も、ワカナちゃんの学校や家のことも、ワカナちゃんが徳江さんに聞きたかったことも、スクリーンはなにも「説明」してくれないまま。
だから、よけいにリアルに感じるのかもしれないよね。
実際に人とつきあうときに、その人のことをあらかじめ誰かが説明してくれるわけじゃなくて、その人の言葉の端っこから感じ取ったり、心が近づくにつれ、その人自身が言葉で教えてくれるものだから。
少しずつ、店長さんと徳江さんが教えてくれることで、あぁ…って前のシーンの表情や行動が腑に落ちていく。

でも、
抱えてるいろんなものや、小さなよろこびって
往々にして「世間」がガサガサと擦って削っていくもので。
この作品でいえば、浅田美代子演じるオーナーが「世間」の象徴。
食べ物屋の厨房に毛足の長いペットの犬を抱いて入る無神経さや、
真偽を確かめもせず噂を吹き込んで、親切ごかして「忠告」するところや。
だけど、それが悪いことなんてちっとも思ってないところや。
そんなめんどくさい「世間」の中で、人は生きていかなきゃいけないもので。
「世間」の騒音の中にいても、風の音や小豆の声や鳥の言葉を聞き漏らさないように、たいせつで愛おしいと思うものたちと丁寧に向き合って生きられるといいな。
まっすぐ、前を向いて。 声が、とどくように。

【2014年の今日はこんな日でした】